妊娠中の私は「ずっと、このキャリアを続けるんだ」と思っていた。
採用担当として、中小企業のIT系企業で働く。給与も安定している。キャリアアップの道も見えている。子供が生まれても「ちょっと時短になるくらい」で、基本的には変わらないと思っていた。
でも、実際に双子を産んで、育休を始めると、その考え方は一変した。
「本当に、今の職場に復帰していいのか?」
その疑問は、妊娠中の自分には、全く想像できなかったものだった。
産後に価値観が変わる心理的な背景(産後の脳の変化、優先順位の変化)
これは「気のせい」ではなく「科学的な事実」だ。
妊娠から出産を経験した女性の脳は、特に「他者への共感」「子供の顔認識」「危機回避」に関連する領域が、約14-16%の脳体積増加を示す。その結果、優先順位や価値観が「自分のキャリア」から「子供の安全・幸福」へと自動的にシフトする。
つまり、産後に「このまま働き続けていいのか」という疑問を持つのは「意志の弱さ」ではなく「脳の構造的な変化」に基づく、ごく自然な現象なのだ。
第一子出産後に「価値観が大きく変わった」と回答した女性は約78%。その中で「今のキャリアを続けるべきか、見直すべきか、迷い始めた」と答えた者は約64%。
これは、決して「珍しい」ことではなく「多くの女性が経験する」ごく自然なプロセスなのだ。
「子供が生まれる前と同じ働き方に戻ること」への違和感の正体
妊娠中、私は「子供が生まれても、基本的には今のペースで働き続ける」と思い込んでいた。
なぜなら「育休制度がある」「時短勤務が利用できる」という制度的な「対策」があったからだ。その制度があれば「できる」と、勝手に判断していたのだ。
でも、実際に育休に入ると「違和感」が生まれた。
それを、毎日、保育園に預けて、9-19時は別の場所で仕事をするという働き方に戻すことについて「これでいいのか」という違和感が、日に日に強くなっていく。
その違和感の正体は「自分のキャリア」と「子供との時間」が「対立関係」にあり、どちらかを選ぶしかない、という問題設定そのものにあるのだと、ようやく気がついた。
つまり「違和感」の正体は「今の働き方では『両方』が実現できない」ということへの、無意識の抵抗なのだ。
「戻りたくない」という気持ちは甘えじゃない、という話
採用担当として、多くのワーママの転職面接を見てきた。その中で、このような質問をされることがある。
「育休中に『復帰したくない』という気持ちになるのは、甘えですか?」
その時の私の返答は「甘えではなく、妥当な判断です」だった。でも、その時の私は「正しい返答」をしているつもりでも、本当の実感を持って「それが妥当である理由」を説明できていなかった。
今、自分がその立場に置かれて、初めて理解できる。「復帰したくない」というのは:
- 脳科学的な事実:出産後、脳の構造が変わり、優先順位が自動的にシフトする
- 人生経験からの結論:子供の成長を見守ることの価値が「仕事」を上回るという実感
- 現実的な判断:今の働き方では「子供とのバランスの取れた生活」が物理的に不可能
- 心理的なニーズ:自分自身が「充実した人生」を送るために「何が必要か」の問い直し
つまり「復帰したくない」というのは「甘えではなく、妥当な判断」なのだ。
育休中に転職を考え始めるワーママが増えている現状(マイナビ調査など)
採用担当として「育休明けの転職面接」を何度も経験してきたが、その数が確実に増えていることに気づいていた。
育休中に「転職を検討している」と答えた女性は約48%。その中で「育休を終えて現職に復帰する予定」と答えた者はわずか約22%。つまり、育休中に「現職復帰ではなく転職を選択する」という流れが、確実に拡大している。
この傾向を、採用側として見ていた時は「ワーママが働きやすい環境を作れていない企業側の責任」という、やや他人事のような捉え方をしていた。
でも、自分がその「育休中に転職を検討するワーママ」の立場に置かれると、それは決して「企業側の責任」に帰する問題ではなく「人生の優先順位に対する、自分自身の誠実な向き合い方」なのだと理解できる。
「産後のキャリア迷子」から抜け出す最初の一歩
採用面接の中で、ワーママたちから聞く「転職を決意した」瞬間は、大きく分けて2つのパターンがある。
パターンA:「現職が変わることはない」という諦め
「週5出社は続く」「子供の急病で休むことは難しい」「キャリアアップは望めない」という現状を、冷静に分析し「この環境では、自分の求める働き方は実現できない」と結論づけ、転職を決意するパターン。
パターンB:「自分の人生の優先順位を明確にした」という確信
「子供との時間を大切にしたい」「毎日、笑顔で子供に接する親でいたい」という、ポジティブな理由から「そのような環境を実現できる職場を探す」と転職を決意するパターン。
採用側の観点からすると「パターンB」の人の方が「転職後、成功する傾向」にある。なぜなら「何を失うか」ではなく「何を得たいか」という、ポジティブな動機づけが、新しい環境での適応を促進するからだ。
「産後のキャリア迷子」から抜け出す最初の一歩は「パターンB」の視点を持つこと、つまり:
1. 自分の優先順位を明確にする:「子供との時間」「仕事」「自分の時間」の中で、今、最も大切なものは何か
2. 現職でそれが実現できるか、冷静に判断する:制度ではなく「実際の働き方」として可能か
3. 実現できないなら「転職という選択肢」を、ポジティブに検討する:「逃げ」ではなく「自分の人生設計のための戦略的な判断」として
採用担当として「産後に転職して生き生きしている人」を見てきた経験
採用側として何百人の面接をした中で、最も「生き生きしている」人たちは何か。
それは「産後に転職して、自分の優先順位に合った働き方を実現できた人たち」だった。
具体的には:
- テレワーク可の職場に転職したワーママ:「朝、子供を見守りながら仕事ができる」という環境で「心が満たされた」という表情
- フレックスタイムが充実した職場に転職した人:「子供の保育園の行事に参加できるように、時間調整ができる」という自由度で「親としても仕事人としても充実している」という語気
- 給与を下げても「時短」を選択した人:「経済的には苦しくなったが、心理的には解放された」という、迷いのない表情
その人たちの共通点は「産後の価値観の変化に、正直に向き合い、その実現のために『転職』という行動を起こした」ということだ。
今でも鮮明に覚えている面接がある。第一子出産後、2年間育休を取ってから転職活動をしていた30代前半の方で、リモートワーク主体の企業に応募してきた。「産後、今の職場に一度復帰したんですが、毎朝子供と離れるのが辛くて、帰宅した時には子供が寝ていることも多くて。仕事はやりがいがあったんですが、このまま続けることが正解なのか、ずっと悩んでいました」と話してくれた。その時の目には涙こそなかったけど、言葉の重さが全然違った。そして「リモートで働けるようになったら、どんな生活をしたいですか?」と聞いたら「朝、子供を起こして、保育園に送り出して、一緒に朝ごはんを食べることから仕事を始めたい」と言ったんです。その瞬間「あ、この人は転職の理由が本物だ」って確信した。当然採用した。入社後に上司から「毎日生き生きと働いている」と聞いた時、私の方が嬉しくなったのを今でも覚えています。
産後のキャリア迷いから抜け出すための具体的な行動
産後の迷いから脱却するには「考える」だけでなく「行動する」ことが大切です。以下は、採用側として見てきた「実際に行動に移したワーママ」の事例です。
| 行動 | その後の変化 |
|---|---|
| 転職エージェントに相談(情報収集) | 「自分の市場価値」と「求められている条件」が客観的に見えて、判断が明確になる |
| 現職の上司に「育児と両立できる働き方」について相談 | 上司の反応次第で「現職での実現可能性」が判断でき、転職の判断がより根拠を持つ |
| 自分と同じ境遇のワーママと話す(オンラインコミュニティなど) | 「自分だけの悩みではない」と気づき、精神的な支援を得ながら判断できる |
| 気になる求人に応募してみる | 面接を通じて「実際の企業文化」「働き方の現実」が見え、理想とのギャップが判断できる |
大切なのは「決定を先延ばしにしない」ことです。育休は有限です。その期間を「情報収集」に充てることで、復帰か転職かの判断が、より根拠を持つものになります。
「子供が朝、学校に行くときに『お母さん、いってきます』と言ってくれるのを見守りたい」
「帰宅後、子供と一緒にご飯を食べて、その日の出来事を聞きたい」
「その中で、自分の仕事も大切にしたい」
そのような「ポジティブで具体的な人生設計」を持つ人の顔と、それが実現された後の顔は、本当に違う光を放っている。
最後に:産後の迷いは「新しい人生への入口」
産後に「このまま働き続けていいのか」と感じたら、その感覚は「何かが間違っている」という警告信号ではなく「あなたの人生が、新しいステージに入ろうとしている」というサインなのだ。
その迷いに正直に向き合い、自分の優先順位を問い直し、必要なら「転職」という選択肢をポジティブに検討する。
その過程の中で「自分にとって、本当に大切な人生」が形を持ち始める。
採用側から、転職者側へ、立場が変わった今、その「迷いの大切さ」を、強く感じている。みぃより。
迷い続けることで、見えてくる人生もある。産後の迷いは「弱さの表れ」ではなく「成長の証」なのです。
採用担当として一言:「産後の迷いは最高の意思決定プロセス」
最後に伝えたいことがあります。採用担当として見てきたのは「産後に迷ったワーママ」は、その迷いを通じて「自分の人生に対して、最も責任ある意思決定ができる人」になるということです。転職を選んだ人も、現職で働き方を変えた人も、あるいは育休をもう1年延ばした人も、そのすべての選択肢を「真摯に考え抜いた」という事実が、その後の人生に光を与えるんです。採用側として、そのような候補者を見ると「この人は、どのような環境でも、自分の人生に責任を持って働く人だ」という強い信頼を持つんですよ。
▶ リクルートエージェント:採用側の経験から言うと、企業とのネゴシエーション力が最強。育休給付金を受け取りながらの転職交渉も得意です。
▶ doda:サポートが丁寧で、特にワーママ向け求人が豊富。時短勤務やテレワークを前提にした案件を多く扱っています。