育休中に感じた孤独感
育休6ヶ月目、ふいに孤独感が襲ってきました。毎日子どもたちのお世話をして、時々親友に連絡をして、でも根本的に「自分は今、誰なのか」という問いが止まりませんでした。かつての「会社のみぃ」は消えて、今は「ママのみぃ」。その変化に、私は大きなアイデンティティの喪失を感じたのです。
仕事から完全に切り離された生活の中で、「復職後、仕事と育児を両立できるだろうか」「もう、あの頃のように仕事に集中できないかもしれない」「子どもたちに何かあった時、後悔しないだろうか」——こうした不安と問い正が、毎日毎日、心の中でぐるぐる回っていたのです。
そんな時に出会ったのが、以下の5冊です。全てが、ワーママたちの実話やエッセイです。彼女たちの選択、彼女たちの葛藤、彼女たちの決断を読むことで、初めて「自分は一人ではない」という安心感が生まれました。
日本と海外のワーママ観の違い
これらの本を読んでいて気づいたことは、「日本と海外のワーママ観の差」です。日本では、「仕事をする母親」という選択肢が、まだ多くの場面で「わがまま」「子どもに申し訳ない」というニュアンスで受け取られることがあります。一方、海外では、「母親であることと、キャリアウーマンであることは相反しない」という考え方が、より一般的です。
その差を理解することで、私の中の「罪悪感」が少しずつ解消されました。「働く母親という選択肢を、堂々と選んでいい」「むしろ、その選択を通じて、子どもたちに何かを教えることができる」——こうした前向きなメッセージが、これら5冊から一貫して伝わってくるのです。
📚 1冊目:「男女格差後進国」の衝撃
著:治部れんげ(小学館新書)
ジャーナリストの治部れんげさんが、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で日本が121位(2019年発表)だったショックを出発点に書いた一冊。育児や家事、仕事の負担配分——「なんか大変」と感じていることの正体が、無意識のジェンダー・バイアスという構造問題だと可視化してくれる本です。
印象的なのは、カナダが閣僚の女性比率を3年で30%→50%に上げたプロセスや、インドネシアのCEO女性比率5%→30%の変化を紹介しているくだり。「社会構造は変えられる」というエビデンスを見せてくれるので、個人の努力だけに追い込まれない視点を取り戻せます。
採用担当としても、男女の昇進スピードに差がつく瞬間を何度も目撃してきました。この本を読むと、それが「本人の力不足」じゃなく「制度と無意識」の産物だとわかり、キャリアを無理に諦めなくていいんだと思えます。ワーママが働き続けるかを迷ったとき、構造を理解するための一冊です。
📚 2冊目:LEAN IN
著:シェリル・サンドバーグ
シェリル・サンドバーグは、FacebookのCOO(最高執行責任者)で、女性のキャリアについて世界的に発言してきた人物です。LEAN INは、「女性も、男性と同じくらい『前のめり』に仕事をしてもいい」というメッセージを発しています。
日本のワーママには、しばしば「謙虚さ」「控えめさ」という圧力がかかります。「主張が強すぎる」「野心的すぎる」——こうした評価は、同じ行動を男性がした場合とは異なります。シェリルのこの本は、そうした「無意識の性差別」に対して、「女性も『自分の席に前のめりで向かう勇気』を持つべき」と説いているのです。
育休中、「復職したら、自分のキャリアについて遠回しに主張するのではなく、堂々と『これが私のキャリアゴールです』と言っていい」という確信を得ました。これは、採用担当の立場からしても、候補者の「主張性」は実は採用側にとって非常に価値があることを知っているからです。
📚 3冊目:オプション B
著:シェリル・サンドバーグ
LEAN INの続編にあたるこの本は、「人生は常に『プランA』通りに行くわけではない。時には『オプションB』を受け入れ、それでも前に進む勇気が必要」というテーマです。シェリルは、夫の死という予期しない出来事を経験し、その中で感じた「レジリエンス(回復力)」について語っています。
双子育児をしながらキャリアを積みたいというのも、実は「プランAが崩壊した時の、プランB」かもしれません。でも、この本が教えてくれるのは「プランBだからこそ得られるものもある」ということです。完璧な人生設計よりも、「予期しないことが起きた時に、それでも前に進む力」の方が、人生においては遥かに重要なのです。
特に母親になることは、「人生のプランが一変する」という経験です。でもその変化の中で「新しい強さ」を見つけることができる——この本はそのメッセージを、シェリル自身の悲劇を通じて語っているのです。
📚 4冊目:女性のいない民主主義
著:前田健太郎
前田健太郎は、社会学者で、「日本社会がいかに女性を排除してきたか」について、データと歴史を通じて分析しています。この本は、「ワーママの個人的な努力では解決できない、構造的な問題がある」という認識をもたらしてくれました。
つまり、育休中に感じていた「自分のキャリアに対する不安」は、実は「個人の問題」ではなく、「社会構造の問題」だったという意味です。働く母親が不利になるのは、「母親の努力が足りないから」ではなく、「社会システムが男性中心に設計されているから」なのです。
この認識は、私の中の「罪悪感」をさらに軽くしてくれました。そして同時に「だからこそ、私たちは声を上げる必要がある」という使命感も生まれました。採用担当として、私は「構造的に不利なワーママを、いかに公正に評価するか」という課題に向き合い続けています。
📚 5冊目:解縛—母の苦しみ、女の痛み
著:小島慶子(新潮文庫)
元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子さんによる、「母親であること」と「娘であること」をほどく自伝的エッセイ。摂食障害、女子アナ時代の挫折、母からの呪縛——ワーママが抱える「なぜか母に対して距離を置けない」「母のように完璧になれない」という苦しさに、正面から向き合った一冊です。
育休中にこの本を読んで、私自身の母への気持ちや、「双子の母として子どもたちにどう向き合うか」を見つめ直しました。世代を超えて受け継がれる「良い母像」の呪いから、自分を少しずつ解放していくプロセスが描かれていて、エッセイとして読みやすいのに、本質的に重い問いを投げかけてくれます。
採用面接でワーママの候補者が「母のようになりたくない」「でも母を否定しきれない」という葛藤を抱えているのを感じることがあります。この本は、その葛藤を整理する言葉を与えてくれます。働く女性の生き方を考える5冊の締めくくりに、ぜひ。
おすすめの読む順番と所要時間
これら5冊を一気に読む必要はありません。育休の期間や心身の状態に応じて、読む順番を工夫することで、より効果的に学べます。
育休初期(0~3ヶ月):「男女格差後進国」から始める
孤独感や不安が最も高い時期は、「自分の問題ではなく、社会構造の問題である」という認識を得ることが心を軽くします。データと事例で、目に見える形で「構造」を理解できるこの一冊が最適です。所要時間は約3~4時間(新書なので読みやすい)。夜間授乳の合間や、休日の短時間に分割読書できます。
育休中盤(3~6ヶ月):LEAN IN とオプション B
心に余裕が出てきた中盤は、キャリアや人生設計についてのメッセージを受け取る準備が整っています。LEAN INは約4~5時間で読め、オプション B は約3~4時間。この2冊は並行読書もしくは1冊ずつ、間隔を空けて読むのがお勧めです。個人的には、先にオプション B を読んで「完璧でなくていい」という安心感を持ってから、LEAN IN の「前のめり」のメッセージを受け取る方が、心に落ちやすいと感じました。
育休後期(6~9ヶ月):女性のいない民主主義→解縛
復職が視野に入り、「自分の選択」を整理し始める時期です。女性のいない民主主義で「社会を変える」という視点を持った後、解縛で「自分の心の中の呪い」と向き合う流れが効果的。各5~6時間程度、うち特に「解縛」は心を揺さぶられる場面が多いので、落ち着いて読める環境が必要です。
育休中、「時間がない」を解決する読み方
「育休中だから時間がある」という幻想は、双子育児の中で即座に砕けました。夜泣き、授乳、おむつ替えの合間で、どうやって本を読むか。採用担当の視点から、私が実践した工夫を共有します。
音声化・オーディオブック活用
これら5冊の大半は、オーディオブック(Audible、google play books等)で提供されています。抱っこ紐での寝かしつけ、散歩、洗濯物を畳みながら「聴く」読書は、テキスト読書の2倍のペースで進みます。オーディオブック化されていない場合は、有料の音声朗読サービスを使う手もあります。
「完読」を目指さない
気になった章だけ拾い読みする。本の順序を無視して「今の自分に必要な部分」から読む。これらの本は、カバー・ツー・カバーで読むことより、「心に刺さった1つのメッセージ」を持ち帰ることが重要です。採用面接の場で「この本の第3章で〇〇という事例が挙げられていて...」と引用する必要はないのです。
読書会やSNS上の要約コンテンツの活用
育休中、本の読書会コミュニティに参加することで、他のワーママたちの解釈や体験を聞くことができます。新刊.netやこれらの本の公式読書ガイドも活用価値が高い。全文読了できなくても、他者の読後感を聞くことで、本のエッセンスを吸収できます。
ワーママが陥りやすい「読書の罠」
採用担当として、そしてワーママとして、これら本を読む際に気をつけたい落とし穴があります。
罠1:「本に書いてある理想」と「自分の現実」のギャップで絶望する
シェリル・サンドバーグは、Facebookの最高執行責任者です。彼女の「仕事に前のめりに向かう」という選択肢は、日本の中小企業で働く私たちと、全く異なる文脈の中にあります。本から得た理想的なキャリア像と、現在地のギャップに落ち込む必要はありません。むしろ「この著者と私の状況の違いは何か」を問い直すことが、本を読む価値です。採用担当の観点から言えば、候補者が「理想と現実のバランス」をどう取っているかは、その人の「実行力」を測る大事な指標です。
罠2:「本の知識」を武器に、周囲を批判する
特に「女性のいない民主主義」や「男女格差後進国」を読んだ後、「日本の企業はジェンダー後進国だ」「うちの会社の制度は遅れている」と周囲を批判したくなります。その気持ちはわかりますが、採用側としてアドバイスするならば「その批判を、いかに建設的な改善提案に変えるか」が、キャリアアップの分岐点になります。ワーママだからこそ持つ「問題認識」を、「解決策の提案」に昇華させることが、次のステップです。
罠3:完璧な「ワーママ像」を求めてしまう
これら5冊の著者たちは、皆、何らかの「葛藤」を抱えています。シェリルは夫の死を経験し、小島慶子さんは摂食障害と向き合っています。本を読むことで「こうすれば完璧なワーママになれる」という幻想を持つ人もいますが、本当のメッセージは「不完全なままでいい」「自分のルールで生きていい」ということです。その逆説的なメッセージを見落とさないことが大事です。
採用側の視点から見た「本の活用法」
私が採用担当として、これら本を読むことで学んだ視点を、人事・採用に携わる皆さんと共有したいと思います。
候補者のキャリア観を読み解く質問
面接で「ワーママとしてのキャリアをどう考えていますか?」と聞く時、候補者の答えの奥に「社会構造に対する認識があるか」「自分の選択を主体的に考えているか」を見ています。これら5冊から得た視点があれば、候補者の回答をより深く理解できます。例えば「仕事と育児の両立が不安です」という回答だけでなく「その不安は、社会がまだワーママを完全にサポートしていないシステムから生まれている」という層の深い認識を持つ候補者かどうかが、採用判断に影響します。
採用側が無意識に持つジェンダー・バイアスの気づき
採用担当者自身が「男女格差後進国」を読むことで、「なぜワーママ候補者に対して、独身女性とは違う質問をしてしまうのか」「なぜ育児との両立可能性ばかり確認してしまうのか」という無意識のバイアスに気づけます。これは、採用プロセスそのものを改善する第一歩です。
育休からの復職面談での対話
育休明けのワーママが戻ってくる際、「この一年間、何が変わったのか」「キャリアについてどう考えが変わったのか」を聞く際、これら本が与える問い直しの視点を理解していると、より建設的な対話ができます。単なる「業務の引き継ぎ」ではなく「人生の選択」としてのキャリア形成に一緒に向き合う対話が可能になります。
「自分の選択は正しかった」と思えるようになって
これら5冊を読み終わった時、育休中に感じていた「孤独感」は、大幅に軽くなっていました。なぜなら、世界中の、そして世界史の中で、多くのワーママたちが「自分たちの選択」に向き合い、「自分たちのルール」で人生を歩んできたからです。
復職前のカウンセリングで心理士に「仕事に戻ることについて、後悔していますか?」と聞かれた時、私は初めて「いいえ。むしろ、これが自分にとって正しい選択だと確信しています」と答えることができました。それは、これら5冊の著者たちが、私に「その勇気」をくれたからなのです。