育休中に感じたキャリアへの不安
育休4ヶ月目に突入した時、ふと「これからどうするんだろう」という漠然とした不安が襲ってきました。子どもたちを預けて仕事に戻る、それは分かっている。でも、その先は?ワーママとしてのキャリアは、どう進むべきなのか。双子を育てながら、1人の母親として、1人のキャリアウーマンとして、私は何を大切にしていきたいのか。
採用担当として多くの候補者を見てきたからこそ、その不安は強かったです。私が見てきた「ワーママキャリアの破綻」のパターンも多く思い浮かべたからです。出産を機に退職する人、復職してから3年以内に燃え尽きる人、キャリアの停滞に悩む人——そうした事例を何度も目撃してきたのです。
その時、「10年後をイメージする本」を読もうと思いました。今の不安に対処するのではなく、「10年後、どういう自分になりたいのか」という長期的なビジョンを持つことで、今をどう過ごすべきかが見えてくるのではないか、そう考えたのです。
「10年後」を見つめることの大切さ
育児真っ最中は、「今日をいかに乗り切るか」という短期的思考に陥りがちです。でも、人生は「今」だけではなく、「未来」との延長線上にあります。10年後の自分、20年後の自分を想像することで、初めて「今、何をすべきか」が明確になるのです。
これはキャリア論としても重要です。転職活動の際、採用担当は「この人は会社内でどう成長していくのか」「5年後、10年後にどういう人材になるのか」という長期的なビジョンを見ています。逆に、「とりあえず仕事をしたい」というスタンスの候補者よりも、「10年後にこういうキャリアを目指している」と語れる候補者の方が、はるかに採用されやすいのです。
以下の4冊は、そうした「10年後のビジョン」を描くのに役立つ本です。育休中だからこそ、短期的なスケジュールから解放されて、「人生の大局」を見つめるチャンスがあります。
📚 1冊目:LIFE SHIFT
著:リンダ・グラットン
リンダ・グラットンは、ロンドンビジネススクール教授で、「人生100年時代」の働き方について研究してきました。この本の核心は、「これからは、3段階の人生(教育→仕事→引退)ではなく、多段階の人生になる」という提言です。
ワーママにとってこの視点は革新的です。なぜなら、「人生は仕事と育児の二者択一」ではなく、「人生の中で複数の役割が並行する」という認識をもたらすからです。育休中の今も、「仕事から外れている休止期間」ではなく、「人生の一つの段階」として捉え直すことができるのです。
また、グラットンは「無形資産」というコンセプトを重視します。お金や地位だけではなく、「どんな人間関係を持っているか」「どんなスキルを身につけているか」「自分の健康状態はどうか」といった、目に見えない資産が人生100年の時代には最も重要だと説きます。これは、採用担当としての私の経験とも一致しています。
📚 2冊目:Work Shift
著:リンダ・グラットン
LIFE SHIFTの続編にあたるWork Shiftは、「仕事」に焦点を当てています。グラットンは、「これからの仕事は、『年功序列の企業内キャリア』から『自分でキャリアを設計する流動的なキャリア』へシフトしていく」と予測しています。
これは、ワーママにとっては朗報です。なぜなら、「ずっと同じ企業で働き続けることが正解」という既成概念が崩壊するからです。子どもの成長段階に応じて、「フルタイムの時期」「短時間勤務の時期」「フリーランスの時期」という複数のキャリア形態が、全て正当な選択肢になるのです。
また、この本は「複数のアイデンティティを持つことの重要性」を強調しています。「私は会社員です」というシングルアイデンティティではなく、「会社員であり、母親であり、学習者であり、起業家である」という多層的なアイデンティティ。これらを統合させることで、初めて「真の幸福」が得られるのだと説きます。育休中の今、このテーマについて深く考える価値があります。
📚 3冊目:2030年の世界地図帳
著:落合陽一
落合陽一は、日本を代表する起業家・研究者で、テクノロジーと社会の関係について深く考えています。この本は「2030年に世界がどうなっているのか」という地政学的・技術的な予測を示しています。
ワーママにとってこれが重要なのは、「自分のキャリアを計画する際に、社会全体の変化を考慮する必要がある」ということです。AIの進化、人口減少、テレワークの定着といった社会的変化は、自分たちの仕事の内容や形態に大きな影響を与えます。
また、落合は「日本の衰退」について率直に議論しています。これは一見ネガティブに聞こえますが、採用担当としての私にはむしろ「チャンス」として映ります。既存の企業や業界が衰退する一方で、新しい産業や働き方が生まれるからです。育休中だからこそ、「4年後、10年後に求められるスキルは何か」という問いに向き合うことができるのです。
📚 4冊目:ニューエリート
著:ピョートル・フェリクス・グジバチ(大和書房)
著者のピョートル・フェリクス・グジバチはポーランド出身で、ベルリッツ、モルガン・スタンレー、グーグルを経て独立した人材育成のプロ。Googleでアジアパシフィックのピープルディベロップメントに携わった経験をベースに、「これからのエリートに求められるのは、『知識』や『スキル』ではなく、『目的意識』と『自己認識』である」と説きます。
この視点は、ワーママのキャリアに特に刺さります。仕事か育児か、キャリアアップか家庭か——こうした二者択一を迫られる日々の中で、「自分の本当の目的は何なのか」「何に価値を感じるのか」という自己認識がなければ、常に気持ちが不安定になるんですよね。グジバチは「早く結果を出して、自分を常にアップデートする」「社会に与える影響で仕事を選ぶ」という原則を、Google流のリーダー観として整理しています。
採用担当として特に共感したのが、「成功したいなら、他人の期待ではなく自分の内的動機に従え」というメッセージ。面接で「なぜ転職したいのか」を聞くと、他人軸の回答をする候補者はすぐ見抜けるんですよ。この本を読んだ上で「自分は何のために働くのか」を言語化できているワーママは、採用側から見て圧倒的に魅力的です。
採用担当視点:長期的キャリアビジョンを持つ候補者の強さ
採用担当として、面接で最も注視する点の一つが「候補者が長期的なキャリアビジョンを持っているか」です。特にワーママの場合、この視点は採用判断に大きく影響します。
なぜなら、「育児と仕事の両立」という制約条件の中で、「それでも自分はこういう人材になりたい」という明確なビジョンを持つ人は、限られた時間の中で優先順位を決める力に優れているからです。その結果、「やるべきことに集中する」「無駄な業務は選別する」「チーム内での効率化を進める」といった行動に自然とつながります。
採用面接で「10年後はどうなっていたいですか?」と聞いて、「子どもたちの教育費を貯めながら、課長クラスのポジションで組織マネジメントを担当したいです」と答える候補者がいたら、それはかなり有力です。なぜなら、その答えには「家計管理」「キャリア設計」「時間管理」という複数のテーマが含まれており、人生全体を戦略的に考えている証拠だからです。
私が採用する時には、こういうワーママを積極的に採用します。なぜなら、彼女たちが退職する確率は実は低く、むしろ「限られた条件の中での創意工夫」という能力を存分に発揮してくれるからです。
📖 4冊を読む最適な順番と時間管理
育休中の時間が限られている場合、この順序で読むことをお勧めします。
段階1:Work Shift → LIFE SHIFT(現在と未来の働き方を理解)
マッキンゼーのレポート Work Shift は「今何が起きているか」を理解させてくれます(約4時間)。その後、LIFE SHIFT で「100年人生での影響」を俯瞰します(約5~6時間)。この流れで個別課題から全体観が得られます。
段階2:2030年の世界地図帳(社会情勢を把握)
所要時間約4時間。全体的な背景を理解した後「2030年の具体像」を見ることで、自分のキャリアをその時間軸に合わせるという視点が生まれます。育休中盤以降がお勧め。
段階3:ニューエリート(自分のキャリアを再構築)
所要時間約4時間。最後に「この変化する時代で、私はどう生きるのか」という問いに答える本として。他の3冊で得た視点をまとめ、自分のキャリア哲学を確立する最後のピースになります。
📝 読了後の「10年後キャリアビジョンワークショップ」
4冊を読んだ後、実際に「10年後の自分」を言語化することが何より重要です。面接での質問にも、自分のキャリア判断にも、この言語化が全てを変えます。
ワークシート:「2036年の私」を描く
A4用紙に以下5項目を記入してみてください:
1)職種・ポジション:何をしているか
2)市場価値:どんなスキル・経験が有ると言われるか
3)無形資産:どんな人間関係や学習経験を積んでいるか
4)育児とのバランス:どんなライフステージか
5)逆算アクション:その状態に到達するために「今後3年で何をすべきか」
この5番目の項目が「採用担当が見る長期転職戦略」として評価される重要なポイントです。
🎯 採用側が評価する「10年後ビジョン」の質
採用面接で「10年後のキャリアについて」を聞く理由は、答えの「具体性」と「現実性」から「実行力」を判定するためです。
漠然とした「管理職を目指したいです」よりも、具体的な「2036年までに双子が中学生になるので、その時までに〇〇スキルを習得して部長候補として動く。そのため今後3年で〇〇経験をしたい」という回答の方が「この人は本気だ」と映ります。
最後に
育休中に読んだこれら4冊は、私のキャリア観を大きく変えました。「仕事と育児は二者択一ではなく、両立できる」「むしろ、その両立を通じてこそ、新しい視点が得られる」「10年後のビジョンを持つことで、今の不安は解消される」——こうした気付きが、復職への不安を希望に変えてくれたのです。
ワーママの皆さんへのメッセージは、「短期の不安に陥らず、長期的なビジョンを持つこと」です。育休中だからこそ、親としての視点を持ちながら、キャリアウーマンとしての視点も同時に持つことができます。その両立こそが、本当の「強さ」になるのです。